2001年02月04日

変態合宿(02話)下書・合宿1日目



あどけない顔をした女性が話し始めた。顔を真っ赤にしている。高校生のようにも見えるが、申込の書類には二十歳の大学生とあった。八重子の調査でもそうだった。粟屋大学工学部の学生だ。
「あの、私は見ておわかりのとおり、その、胸が小さいんです。それで、この合宿に参加したら大きくなるって聞いたものですから、それが参加の理由です」
顔を上げたり下げたりして視線が定まらない。そんなに恥ずかしいなら参加しなければ良いのだ。八重子はあきれる思いで話し手の女性を見ていた。ただし表情には見せない。周りの女性がうなずくのにあわせて、うなずいて見せたりもした。

*

八重子は全裸合宿に参加してしまった今でも、後悔の念を捨てきれないでいた。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。どうして私が裸にならなきゃならないのか。合宿への参加調査を依頼されたときに、簡単にOKしてしまったのが失敗だった。上司に参加の件を電話してしまった後だったので、参加を止めるわけにもいかなかった。参加調査の件は八重子から上司に依頼したのだった。上司はわざわざ部下の何人かの負荷調整をして、八重子に調査の許可を与えてくえた。。それを、やはり止めましたでは、八重子の面子がたたなかった。
(不特定多数に見られるわけではないし、参加者はみな女性だし、あとは治療院の人達は医療関係者だし)
いろいろな理由を考え出して、八重子は自分を納得させた。

合宿の1日目は、駅前の粟屋グランドホテルのロビーで待ち合わせだった。八重子を含めた参加者7人と、粟屋精神力治療院の院長と事務長が初めて顔を合わせた。八重子は参加申込書に貼ってあった写真を思い出しながら、参加者の顔を確認した。2,3人の顔が写真と一致しないように思われた。

ホテルのレストランで食事をしたあと、12畳ほどの部屋に案内された。数年前に合宿に参加したという女性の話を聞くのだという。

しばらくして現れたのは、30歳くらいの落ち着いた感じの女性だった。彼女は自らの体験談をゆっくりと話し始めた。ひどい冷性でいろいろな病院で診てもらったが治らなかったこと、友人から合宿の話を聞き、藁にもすがる思いで参加したこと、合宿はとても恥ずかしく、とても苦しいことが多かったこと、だが耐えるだけの価値はあったということ、冷性は合宿に参加して半年するかしないうちに治り始め、今では冷性だったことが嘘のようであること。

参加者の女性達は、八重子を除いて、真剣に聞いていた。恥ずかしいという話が出たときに、部屋の中に緊張が走った。参加者の女性達も合宿では全裸になることを知っている。自分の身に置き換えてみたのだろう。

八重子も真剣な表情をしながらも、心の中では噴き出していた。八重子の調査では、目の前で体験談を話している女性は大阪の素人劇団の団員だった。時々、テレビのドラマにエキストラとして参加もしている。つまり、さくらなのだ。体験談の内容は、よく聞けば内容は何も無い。「体質改善合宿」のおかげで冷性が治ったとは一言も言っていないのだ。合宿に参加した後、冷性が治ったと言っているにすぎない。合宿と冷性の治癒にはなんの因果関係もないのだ。ただ、合宿に参加したおかげで冷性が治った、合宿は素晴らしい効果があると、聞く側が考えるのは勝手だ。八重子は、参加者の女性達の後姿をみながら、おめでたい人たちだと笑いをこらえた。
(まあ、この程度の話は企業活動としては問題ないでしょう)
体験談を聞く時間は、参加者の女性達の拍手で終わった。

*

3時過ぎ、一向は小型のバスに乗って出発した。行先は、粟屋市の北にある山の中で、山の中腹にある古びた廃寺が合宿場所だった。道は山のふもとまでしかなく、バスから降りると山道を登ることになった。途中で「私有地に付き立ち入り禁止」という看板と金網の門に行く手をふさがれたが、事務長が門を開いた。

参加のパンフレットに「ハイヒールは御遠慮ください」とあったにもかかわらず、ハイヒールを履いていた女性がいて、「こんなとこ歩くの」と文句を言っていた。八重子はいい気味だと内心笑った。

半時間ほど登ると、木造の建物が見えてきた。今夜はここに泊まるのだという。
「うそ、電波が届かない」
携帯電話を手に持った女性が驚いたように言った。あたり一面、山しか見えない。人家はおろか、電線も見えない。あらかじめ合宿場の位置を知っていた八重子も、さすがに呆れた。

部屋に荷物を置くと風呂に入るように言われた。山道を登って汗だくだったので、これは嬉しかった。八重子たちは、丹前に着替えると風呂場に向かった。風呂は10人くらいが入れる大きな湯船で、八重子たちはゆったりと汗と汚れを流した。

風呂に入ると参加者達の口も少し軽くなったようだ。八重子は1人の女性に話し掛けられた。
「山道、疲れたわね」
「そうね」
八重子は普段から体を鍛えているので、疲れは感じなかったが話をあわせた。

1人離れて湯につかっている女性がいたので、今度は八重子から声をかけた。
「あなた、離れてないで、いらっしゃいよ」
「いいわ、私は」
湯気が流れて相手の女性が見えた。八重子は、はっとした。女性の体の右半分に赤い反転が点在していた。
「大丈夫、皮膚病じゃないから、うつったりはしないわ」
八重子の表情に気がついたのか、相手の女性があわてたように言った。
「そうなの」
八重子はバツの悪い思いでその女性から離れた。

*

風呂から上がると、脱衣場に人の集まりができていた。覗いてみると、戸口に張り紙があった。
「合宿を始めます。下着をつけずに奥の部屋へおいでください」
いよいよか。八重子は体が震えた。
「ねえ、裸で行けってことなの」
「まさか」
さすがに裸で脱衣場を出るのは抵抗があるようだった。
「これは着てもいいんじゃやない」
1人が丹前を素肌に羽織った。他の女性達も真似た。
(おやおや、あきらめが悪い人たちだね)
八重子は内心毒つきながら、少しほっとしていた。覚悟はしているとはいえ、裸になるのはつらい。下着を手に包んで、奥の部屋へ向かった。

部屋には白衣の男が3人待っていた。3人ともマスクをしている。不思議な光景だった。院長と事務長の森田、副長の林田だろう。
「おやおや、合宿を始めると書いたはずですが、みなさん、気がつかれませんでしたか」
院長がやさしく問うた。
「いえ、その、下着をつけるなということで、これはいいのかなと思いまして」
1人の女性が代表して答えた。何人かがうなすく。
「ほほほ、それは、とんだ謎解き問答をさせてしまいましたな。申し訳ないことじゃ。されば改めて申しましょう。若い皆様には恥ずかしいことでしょうが、服は脱いでいただきたいのですな」
女性達は互いの顔を見つめあった。やはり脱ぐのかという感じだろう。八重子は今更いやがる女達がよくわからなかった。合宿で全裸になるのは、申込をしたのだから知っているはずだ。どうして恥ずかしがるのか。八重子は思い切って脱ぎたいところを我慢した。目立つ行動は避けたほうが良い。
「わかりました」
1人の女性が脱ぎ始めた。右肩に赤い斑点が見えた。風呂場の女性だ。その隣の女性2人も、もぞもぞ始めた。脱ぐつもりらしい。八重子は隣の女性をうかがった。最初でも最後でもないように脱ぐつもりだった。
「脱いだものは部屋の隅に置いておいてくだされ。脱いだ方からこちらの方へ、お好きな座布団にお座りください」
八重子は丹前をきれいにたたむと壁際に置いた。風呂場で裸になっていたほうが、これならましだった。3人の男にストリップを見せただけのことだ。

部屋の奥に色とりどりの座布団が置いてあった。八重子は端の座布団に座った。木の台が置いてある。おそらくそちらを向いて座るのだろう。ちょうど全員の様子を探るには良い位置だった。

7人が座布団に座ると院長が話し始めた。
「皆さん、体質改善合宿にようこそ。この合宿で皆さんが良い成果をあげる事ができるように心から応援させていただきますぞ。改めまして、私が院長の虹岡です。こちらは助手の森田と林田」
白衣の2人が軽く頭を下げた。女性達も軽く礼をする。

八重子は院長の名前を聞いた瞬間、笑ってしまいそうになった。院長の名前は「虹岡七色男(にじおか・ななお)」という。もちろん本当の名前ではない。本名は「木田二郎」だ。どうしてこんな怪しげな治療院の合宿に高い金を払って参加する女性がいるのか、不思議だった。

院長は話しつづけていた。
「これから皆さんとは2週間の長いお付き合いになります。まずはお互いを知るためにこの合宿に参加することにした理由などをお話ください。粗末ではありますが、ステージも用意しました」
木箱のことだ。女性達が軽く笑った。
「お名前などを言いたくない方は、それでも結構。みなさんがお座りの座布団はそれぞれ色が違います。この2週間は、お名前ではなく色で呼ばせていただきます。このあたりプライバシーの問題などが昔にありましてな、頭を絞った結果なのですわ。自己紹介で名前を言いたくない方は、色でおっしゃってください。私は「赤」ですという具合に。よろしいですかな」
女性達の何人かがうなずいた。「では、まず「赤」さんから始めましょう」赤色の座布団に視線が集中した。その座布団に座っていた女性は、驚いたように「はい」と返事をしたまま、しばらく動けないようだった。
「さあ、どうぞ、このステージの上で、時間は5分ほどでお願いします」
「は、はい」
赤い座布団に座っていた女性が、おずおずと立ち上がった。顔を見ると高校生のように見えた。

*
posted by AWAWA at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 変態治療院
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