2000年02月20日

(28話)その28 夏野なぎさは交互に感じ、上田と遠藤が拍手する

女主人公の脇腹が役に立ち100回通電を達成する。
次は200ボルトである。
開脚訓練も間近い。

上田が甲高い声をだした。
「これは使えるなあ」
何が使えるというのだろう。上田が視線を上に向けた。そこには時計がある。
「あれれ、もう12時を超えてるぞ。ようし、あと20回やろうか」
「はい」
遠藤さんが通電装置に手を伸ばした。
「ハマ子ちゃん、覚えている?あと20回気を失わなかったら、土曜日の訓練は無しだからね。がんばってよ」
わざわざ言われなくても覚えている。そのために足を広げると言う恥ずかしい(しかも全然効果が無かった)工夫までしたのだ。上田が騒いだおかげで、なぎさは思いがけず体を休めることができた。あと20回くらいなら大丈夫かもしれない。
「ようし遠藤、電圧150ボルト」
「電圧150ボルト」
復唱が始まった。なぎさは背を伸ばして後頭部を椅子の背に付けた。
「流せ」
「はい」
遠藤さんの声が聞こえてから一呼吸して電気が来た。
「ぐっぅぅ」
頭の中が白くなる。首筋に力がこもっているのは、体が反って首が椅子の背もたれに押しつけられているからだろう。腰が浮いている。気が遠くなりかけた。やがて痛みが引いていくと、お尻が下がり始めた。力が抜けていく。
「……あああぁぁ」
口から息が漏れるように声が出る。尻が椅子に付くと、なぎさは首が前に傾きかけた。
(気を失う……)
このまま首が倒れると気を失ってしまう。なぎさは首を戻そうとした。しかし、心の中で「このまま気を失ってしまえ」という声もする。その方が、少なくとも今は楽だ。
(……)
なぎさは頭の中で渦巻くいろいろな思いを振り払い、首を戻した。呼吸が早くなっている。何度も息を吸う。

上田の声が聞こえた。
「あと19回だあ」
甲高い声が耳にひびく。
「電圧150ボルト」
「電圧150ボルト」
復唱が聞こえてきた。なぎさは、あわてて体を起こそうとした。思い通りに動かない。ゆっくりとしか体が動かない。なぎさはあわてた。
「ハマ子ちゃん、流すよ」
上田がせかしている。なぎさは、ようやく後頭部を椅子の背に付けることができた。ほっとする。
「ようし、流せ」
「はい」
一拍置いて電気が来た。体が反る。お尻が浮き上がって首がおかしな方向に曲がった。背もたれへの押し付け方が中途半端だったようだ。
「ぐぅ…っぅぅぅ」
気が遠くなった。一瞬真っ暗になる。
(ああ……)
すぐに意識が戻った。気を失う失わないの境界線のまわりをうろうろしているみたいだ。尻が椅子に付くと、前と同じように首が前に傾きかけた。
(気を失うっ……)
(どうしよう……)
少し休んだからどうにかなるだろうという考えは甘かったようだ。
(全然大丈夫じゃなかった)
駄目だ、気が遠くな……なぎさは飛び上がった。いきなり目が覚めた。脇腹を触られたのだ。

*

上田の声が聞こえた。
「ハマ子ちゃん、がんばらなきゃ」
「うぇ」
「気を失いかけたら刺激してあげるから」
少し前に上田が「使えそうだ」と言っていたのは、このことだったのか。なぎさは、ゆっくりと首を振った。
「ようし、どんどん行くぞ」
通電訓練は続いた。なぎさが気を失いそうになると、上田が脇腹を触って起こしてくれる。意識が朦朧としているのに、脇腹を触られると体だけは律儀に反応する。なぎさは、痛いのとくすぐったいのを交互に感じさせられて頭がふらふらしてきた。。

痛い、くすぐったい、痛い、くすぐったい、……。

なぎさは、へとへとになってしまった。痛いなら痛いだけで耐えているほうが、まだ楽な気がする。

なぎさは、意識はあるものの何も考えることができなくなってしまった。時々意識が戻ると、しっかりと背を伸ばして椅子の背もたれに背中を押しつけて待機していたりする。どうやら、「電圧150ボルト」という復唱が始まると、条件反射のように背を伸ばして椅子の背もたれに体を押しつける動作をとっているようだ。
(体が勝手に動いてる)
なぎさは自分の体のことなのに感心してしまった。

*

パチパチパチと規則正しい音が聞こえてきた。
「ハマ子ちゃん、すごいよ」
上田の声だ。遠藤さんの声もする。
「すごいなあ」
「やればできるもんだ」
なぎさは焦点をあわせた。目は開いているが何も見ていなかったのだ。上田と遠藤さんが拍手している。
(拍手の音かあ)
遠藤さんが笑っている。上田もへらへらしている。
(えーと)
なぎさは、今の状況を思い出そうとした。
(えーと、何してるの?)
なぎさが口にくわえている手拭を上田が引き始めた。しっかり噛み締めていたものだから、簡単には抜けない。
「ハマ子ちゃん、口あけて。抜けないよ」
「ああ」
なぎさは言われたように口をあけようとしたが、口の周りの筋肉が疲れてしまったらしくて顎が動かない。
「あああ」
と言うしかできない。上田は、なぎさの頬を両側から指で挟んで口を広げて、手拭を引き抜いた。空気が口の中に流れ込んできた。
「すんだよ」
「はあ」
ようやく終わったらしい。
(100回行ったのかな)
なぎさは肝心のことを覚えていなかった。2人が拍手していたのだから、100回は達成できたのだろう。

なぎさは2人にお礼を言った。
「どうも、おかげさまで、何とか、100回まで、たどり着けました」
口が疲れているみたいで、言葉が切れ切れにしか出ない。2人はもういちど拍手してくれた。なんだか、ちょっと気持ち良い。

*
この記事へのコメント
このお話の完結を見たくてブックマークしたままもう何年たったでしょうか・・・
Posted by crazy4u at 2006年12月06日 00:02
最後の執筆から5年以上もたっていますね。申し訳ないです。
Posted by AWAWA at 2006年12月07日 03:36
つづきマダー?
Posted by スン at 2011年08月01日 01:55
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/4215451

この記事へのトラックバック