1998年10月18日

(14話)その14 夏野なぎさはわるだくみをし、お仕置きを受ける

第2週のはじまり。
女主人公はわるだくみを企てるが見破られる。
お仕置きとして電気を受ける。

翌週の月曜日、なぎさは早起きした。

眠いのを我慢して布団から這い出しアパートを出る。おかげで8時前には大学に着くことができた。北門から入って、工学部実験棟へ向かう。粟屋大学は今日から新年度が始まるが、朝が早いせいか人影は少ない。

なぎさは、歩きながらカバンをなでた。大き目の黒いビニール製のカバンだ。中には服と下着と靴が一揃い入っている。訓練の無い時間帯にこっそりと身に着けるつもりの着替えだ。

先週の3日間、なぎさは全裸で過ごした。今週もずっと裸でいることになる。特別実験研究生の義務とはいえ、つらいものがあった。せめて一日のうち数時間は服を着ていたい。なぎさは、控え室のどこかに(机に引き出しあたりかな)着替えを隠す計画だった。早目に大学に来たのは、そのためだ。

工学部実験棟に入る。

少し前から忍び足で歩いているのに気がついて、なぎさは苦笑した。「わるだくみ」をしていると、自然とそうなってしまうようだ。控え室のドアをそっと開ける……
「あれ」
鍵がかかっていた。ノブが回らない。

隣の扉へ回ってみた。黄色い文字で「危険立ち入り禁止」と書かれていている鉄の扉だ。なぎさは取っ手を引いた。動かない。息を止めてもう一度引く。やはり動かない。
(うへえ)
せっかく早く来たのに、これでは何にもならない。なぎさは控え室のドアによりかかった。誰かが開けてくれるまで待つしかない。

しばらくすると、誰かが廊下を近づいてきた。女性だ。なぎさより幼い感じだ。廊下に立っているなぎさを不審に思うのか、ちらちらと視線を投げてくる。なぎさは軽く頭を下げた。

女性は会釈を返して廊下の角を曲った。少し歩いて相田教授の部屋のドアの前で立ち止まり、また、なぎさの方をちらりと振り返る。よほど気になるらしいと思っていたら、相田教授の部屋へ入っていった。
(研究室の人なのかな)
会った記憶はない。もっとも、先週は控え室と実験室からほとんど出ていないから、当然といえば当然だ。

*

半時間ほど待った頃、ようやく上田がやって来た。
「やあ」
相変わらず声が甲高い。
「早いね、ハマ子ちゃん、まだ9時前だよ。感心だね」
訓練が始まるのは10時からで、それまでに控え室に入って裸になっているように言われていた。

なぎさはカバンを持ち上げた。
「ハマ子ちゃん、おっきなカバンだね」
「はあ」
「何がはいってるの」
「別に。いろいろです」
なぎさは、計画がばれたわけでもないのに、どぎまぎしてしまった。
「ふーん、じゃあ、鍵を取ってくるから」
上田は相田教授の部屋へ入っていった。なぎさは大きく息を吐いた。早目に来て着替えをこっそり隠す計画は失敗したが、あきらめることはない。チャンスはまだあるはずだ。

上田が戻ってきた。鍵のほかに紙をはさんだプラスチックのボードも手にしている。
「じゃあ、さっそくだけど、質問に答えて」
「はあ」
「何時間寝ましたか?」
「えーと」
なぎさは計算した。今日は少し早起きしたので普段より睡眠時間は短い。
「6時間くらいです」
「気分は?」
「まあまあです」
「調子の悪いとこはないですか?」
「特に無いです」
「オッケー、オッケー、いいねえ」
上田は紙に記録を付けていく。実験の記録なのかもしれない。上田は控え室のドアを開けた。
「じゃ、脱いで」
「え」
いきなり言われて困る、やはり心の準備というものがいる。
「ほら、お早くどうぞ。月曜の朝はいろいろ忙しいんだから」
「はあ」
遅かれ早かれ服は脱がないといけない。それに、脱ぐとなれば上田は部屋から出ていってくれるだろうから、そしたら着替えを隠すチャンスだ。なぎさは、心の準備はまだ済んでいないものの脱ぐことにした。
「あの、外してもらえます」
「ん?」
「着替えますから」
「着替えるって、何か着るの?」
「え」
着替えるというのは正しくはなかった。裸になるのだから。
「えーと、服を脱ぐので外してもらえます」
「そうはいかなくてね。僕を気にせず、やってちょうだい。僕って存在感無いでしょう」
上田はにやにやしている。なぎさは困った。これでは、カバンから着替えを出して隠すことができない。
「じゃあ、トイレで着替えます」
トイレで服を脱いで、下着だけでもどこかに隠してしまおう。
「だめだめ。井上さんに言われているんだよ、月曜日の朝は目を離すなって。そこで脱いでよ」
う、何もかもお見通しみたいだ。なぎさは、おとなしく脱ぐことにした。そのうちチャンスがあるかもしれない。

上田に背を向けて服を脱ぐ。上田がカゴを渡してくれたので、脱いだ服はカゴの中にたたんで置いた。下着は見えないように底の方に潜り込ませる。

裸になった。このままチャンスが無いと、これから1週間、裸で過ごすことになってしまう。ちょっと肌寒い。体が震えてしまう。

*

上田がつぶやいていているのが聞こえる。
「服と靴はオッケーと。次はカバンか」
なぎさの大きくて黒いカバンは控え室のドアを入ったすぐ脇に置いてある。上田が立っているすぐ目の前だ。なぎさは、嫌な予感がした。
「カバン、見せてもらうよ」
「え」
なぎさは振り向いた。上田がカバンに手を伸ばしていた。
「だめ、だめです」
「おや」
上田が言った。
「見られて困るものでもはいってるの?」
「ち、違います」
「だったら、見せてよ」
なぎさは、カバンの中の着替えをどう言い訳すればいいのか思い付かなかった。どうにも見られては困る。
「だめです」
「あやしいなあ」
「そんなことは無いです」
ドアが開いて、誰か入ってきた。
「……はようございます」
遠藤さんだった。遠藤さんは、なぎさが控え室にいるのに驚いたようだ。
「早いな」
なぎさは、挨拶をしていいものか混乱した。遠藤さんの視線が左胸で止まったのを見て、腕で隠しているはずの左の乳房が見えそうになっているのに、なぎさは気がついた。腕をずらして隠しながら、頭を少し下げる。

上田が言った。
「ハマ子ちゃん、研究室の規則で決まっているんだよね、持ち物を検査するのは。変なものを持ち込まないようにさ」
なぎさは、まさしく変なものを持ち込もうとしている訳で、言葉に詰まってしまった。
「廊下で見た時は、まるで旅行にいくみたいだったよ、大荷物で」
「はあ」
「あやしいなあ」
最初からばれていたみたいだ。なぎさは唇をかんだ。
「検査させてもらうよ、いい?」
「はあ」
なぎさは、うなずくしかなかった。

上田はカバンを開けて、金網ベットの上に中身を並べ始めた。バスローブ、下着、パジャマの上下、スリッパ、タオル、……。

上田が楽しそうに言った。
「ハマ子ちゃん、これは、何なのかな」
「……」
なぎさは何も言えない。
「着替え一式だよねえ」
「……」
「だよねえ、遠藤、そうだよな」
「ですね」
なぎさは言った。
「それは、土曜日に着替えて帰るつもりの……」
「パジャマで帰るの?」
そう言われると、返す言葉がない。上田が言った。
「やれやれ、お仕置きだな」
「え」
「井上さんから、きびしく対処するように言われてるんでねえ。僕はあんまりやりたくないんだけど」
上田はカバンの中身を戻して、カゴといっしょにロッカーにしまった。なぎさの見ている前で、「ガチャン」と音を立ててロッカーは閉められた。上田はロッカーに鍵をかけると、実験室へ通じるドアから出ていった。これで1週間ずっと裸でいることが決定だ。

*

上田はやがて戻ってきた。手にあのグローブをはめていた。井上助教授から不意打ちで電気を流された「通電グローブ」だ。
「じゃあ、お仕置きだ」
上田は、なぎさに近づいた。
「手を出して」
「いや」
なぎさは後ろへ下がった。遠藤さんにぶつかりそうになる。狭すぎて逃げ場所が無い。
「手がいやなら、他のところにするかな」
乳房を掴まれたことを思い出して、なぎさは仕方無しに右手を差し出した。遠藤さんが近くにいるのが気になる。体を揺らしたら接触しそうだ。なぎさは前に進んだ。
「あの、広い所で」
「ん、ああ、その方がいいな」
上田は後ろへ下がった。なぎさの右手をグローブでつかむと、ふざけた口調で言い出した。
「ハマ子ちゃんは、悪いことをしました。着替えを持ち込もうとしました。だからお仕置きです」
「ジーーー」という機械音が聞こえてきた。あの時の記憶がよみがえる。
「遠藤、漏電するかもしれないから、壁とか触るなよ」
「はい」
なぎさは身構えた……
「ぎゃあっ」
衝撃がなぎさを襲った。床に膝をつく。

上田の声が聞こえた。
「もう2度とやりませんと、誓ってほしいなあ」
「……」
「誓ってくれないのかな」
なぎさは慌てて言った。
「ち、誓います」
「何を」
答えようとしたが、言葉が出て来ない。
「えーと、えーと」
あせる。
「強情だなあ」
上田が困ったような声で言った。「ジーーー」という機械音がまた聞こえてきた。
「誓います、誓いますから」
「だから、何を」
言葉が出てこないのだ。私はどうしてこんな目に会っているんだろ……
「誓い……ぎゃあっ」
なぎさはからだを震わせた。
「もう着替えを持ち込んだりしませんと誓いますだろ」
「は、はい」
「言って」
「えーと、もう着替えを持ち込んだりしません」
「誓います」
「はい、誓います」
「続けて」
「えーと、もう着替えを持ち込んだりしませんと、誓います」
なぎさは言われるままに復唱した。

週の初めからこんな調子では、先が思いやられた。

*
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